千葉県佐倉市にあります、DIC川村記念美術館が3月31日で閉館となる5日前に訪れました。
閉館が決まってから、連日混み合い長蛇の列です。
中世ヨーロッパのお城を思わせる建物と、池を巡るように配された庭園、
散策路は春一色で自生のカタクリ、スミレ、オオイヌフグリ、
ハクモクレンの花が風に舞う姿に、この美術館があることに感謝の想いです。

川村記念美術館を始めて訪ねたのは20年以上前、
東京駅から美術館までなんと無料の送迎です。
レンブラントの「つばひろ帽を被った男」が描かれた大型バスのその日の乗客は私を含め2人だけでした。
大企業は凄いなぁ。こんな事が出来るんだ。
正にフィナンソロピー(企業が社会貢献を目的として行う活動 )だ。
裏には物言う株主が
DIC川村記念美術館はDIC株式会社(旧大日本インキ)が所有する美術館で、
1990年5月の開館ですが、運営費は毎年数億円の赤字とあります。
(だろうあなぁ。 今回は片道1450円で、補助席まで満席でした。)
企業にとって、美術館の運営コストは経営において少なからぬ負担であったようです。
一方、美術品の評価額は簿価112億円が、1,000億円または2,000億円に達するとも言われます。
そうなると、モノ言う株主は黙っていません。
DIC株を11%超保有するのは香港の投資ファンド「オアシス」です。
「DICにおける機能欠陥に問題のあるコーポレート・ガバナンス体制が
DICにおける長年収益安定不振につながってきました。
これは全てのステークホルダーにとって不幸なことです。
来る定時株主総会において、株主は、DICに関してこのような
コーポレート・ガバナンスがもはや認められないということを示すべきです。」
美術品を売却して運用すれば年間50億円の収益、このまま運営を続ければ毎年数億円の赤字。
「企業価値を最大限にするためには、美術品をすべて売却しなければならない」と。
社会貢献と経営のバランス
川村美術館のコレクションは、創業家3代に渡り集められたもので評価も高く、
散逸を惜しみ、美術館の存続を求める署名も集まりました。
広大な敷地に建つ美術館、庭園は企業の財産であると同時に、
佐倉市にとってもかけがいの無いものではないでしょうか。
オアシスの言う、全てのステークホルダー(利害関係者)には署名をした人、
地元佐倉の人達、DIC関係者も入りますよね。
しかしながら、美術館運営に伴う財務負担と大株主からの圧力により、
現状維持が難しいと判断されたのでしょう。
結局、佐倉の美術館は所蔵点数を4分の1に縮小し、
東京六本木の国際文化会館に移転し、残りは順次売却が決まったようです。
オアシスの保有株式は11%です。
仮に、署名者5万人と、従業員、佐倉市の有志が株主だったなら、
毎年の赤字削減の努力をしつつ、川村美術館は今の地に留まることができたかしら。
佐倉市は庭園の一部は、これまで通り一般公開を継続と広報しています。
けれど、最寄りの佐倉駅から車で30分かかるアクセスは、今も美術館の無料送迎バスだけです。
レンブラントの「つばひろ帽を被った男」を失った美術館はただ佇むだけ。
主を失った白鳥たちは、どうなるのか。
DIC研究所の人達なのでしょうか、
同じ制服を着た人たちが春爛漫の花吹雪の中スマホで撮り合っていました。
美術館はDICの社会貢献事業であり、地域の観光拠点のひとつでもありました。
川村記念美術館に限らず、一企業では対処が困難な文化施設の管理運営は
地元や賛同を得られる有志を巻き込んで守れないものでしょうか。
経済合理性優先の海外株主は今後も増えるだろうな。。。