「出光美術館で板谷波山の展覧会をやっているので出かけてみて。」
友人は、いろんな展覧会を見た中で、波山ほど心を揺さぶられ感動した作家はなかったと。
私とは縁のある土地、下館出身とのことで早速出かけました。
驚きでした。
出光美術館収蔵作品展ならいざ知らず、
140点に及ぶ展示品のすべてが一人の作家、板谷波山の手によるものです。
同じ陶芸家でも有田焼の柿右衛門さんと、益子焼の浜田庄司さんの作風はまるで違うし、
そもそも有田焼と益子焼、九谷焼の違いは分かる。
ところが波山の作品は多岐多様すぎるのです。
とても一人の作家が生み出したものとは思えない。
たっぷと釉を掛けただけのもの、凛とした青・白磁、かと思うと見入ってしまう絵付けの数々、
アールヌーボー風のものや東洋的なものもあれば、絵付けのための精密な素描集もありました。
驚きの連続の中で巡っていくと、
最後のころの展示品の中に小さな白磁観音聖像と白磁鳩杖頭がありました。
生まれ故郷の下館(茨城県筑西市)をこよなく愛した波山が
観音像は日中戦争、太平洋戦争で息子や夫を亡くした遺族に、鳩杖頭は80歳まで生きられたことを感謝し、
故郷の80歳以上の方々に贈られたものでした。
波山の名は、故郷の筑波山に因んでつけられた号です。
出光美術館の創設者、出光佐三氏は若い時期に波山の作品に出合い、
深く感動し生き様にも魅了され親交を深めたとのことです。
波山の工房を訪れた佐三氏は、
一見何の欠点もない作品をまさに割ろうとしているのを思い留まらせ、
譲り受けた「命乞い」と銘打たれた天目茶碗は、殊更味わい深く忘れがたい作品です。